火の坂たぬき


むかし、むかし・・・・
みなはらと言う所に連れ合いを亡くした一人暮らしのお婆さんがいました。

お婆さんは機を織りながら毎晩遅くまで頑張っていました。

そんな或る夜
機織の手を休めて炉辺を振り返ると、なんと、
たぬきの一家が暖を取っていました。

次の日も、次の日も
たぬき一家はやって来たのでした。

毎晩、一生懸命働いて疲れていたお婆さんはなんの挨拶もなしにただただ火に当たって帰っていく一家にとても腹を立ててしまいました。

で、或る夜のこと
お婆さんは懲らしめの為に囲炉裏の火を
たぬきの股座にぶっ掛けてしまったのでした。

火達磨になった
たぬきは悲鳴をあげて坂を転げ落ちて死んでしまいました。

それ以来、その坂は「火の坂」と名付けられたのですが、後日談が続きます。

真夜中にこの坂を通ると、必ず悲しげな
たぬきの鳴き声が聞えて、声を聞いた者は病に臥せるのが常でした。

悩んだ村人が祈祷師に占ってもらった所むかし、火の坂で悲しい最期を遂げた
たぬきの魂が非業の死を知ってもらおうと さ迷っているとのお告げなのでした。

早速、村人達は、狸菩薩の祠を作って供養しました。

それからと言うものは
「お狸さま」と呼ばれて評判になり詣でる人が増え火の坂は大いに繁栄したのでした。
   
                      おしまい


                             
参考資料:神奈川の民話集より